
はじめに
2024年、本屋大賞を受賞した宮島未奈の小説『成瀬は天下を取りにいく』。
滋賀県大津市を舞台に、変わり者だけどまっすぐな少女・成瀬あかりが、周囲を巻き込みながら挑戦を繰り広げていく青春連作短編集です。
“天下を取りにいく”というタイトルにふさわしく、彼女の行動は常に予想を超え、笑いと驚きと切なさを運んできます。
あらすじ
『成瀬は天下を取りにいく』は、全6編の短編で構成されています。物語は中学2年の夏から始まり、高校生活、そして卒業を迎えるまでの成瀬の軌跡を描きます。
「ありがとう西武大津店」
中学2年の夏休み直前、幼なじみの島崎みゆきに向かって成瀬は突然こう言い放ちます。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
閉店が決まった百貨店「西武大津店」に、夏休みを丸ごと費やして通い詰めると宣言したのです。しかも、狙いは“テレビ中継に映ること”。
毎日、西武ライオンズのユニフォームを着て通う成瀬。その姿に最初は呆れていた周囲も、次第に「本気でやり切る」彼女の姿勢に心を動かされていきます。閉店日、成瀬を待ち受ける予想外の出来事が、物語の印象的な幕開けになります。
「膳所から来ました」
次に成瀬が選んだ舞台は お笑い。
「わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」と宣言し、島崎とお笑いコンビ「ゼゼカラ」を結成します。
文化祭での漫才挑戦、M-1グランプリへの出場を夢見てネタを考える日々。突飛な行動に見えながらも、彼女の言葉や仕草には人を惹きつける不思議な力がありました。
「階段は走らない」
この章では語り手が変わり、中年男性・敬太の視点で物語が進みます。成瀬は直接登場しませんが、西武大津店閉店という出来事を通じて“成瀬の存在”が遠くからでも影響を及ぼしていることが示されます。成瀬の個性が人々の記憶にどう残っているかを浮かび上がらせる一編です。
「線がつながる」
高校に進学した成瀬は、なんと 坊主頭で登場。周囲がざわつく中、彼女はまるで動じません。
この話は、高校デビューを狙っていた同級生・大貫かえでの視点で描かれます。成瀬と交わることで、大貫は自分の「本当にやりたいこと」に向き合い始めます。
「レッツゴーミシガン」
百人一首大会で知り合った西浦航一郎が語り手。成瀬に強く惹かれた彼は、観光船「ミシガン」でのデートに誘います。
恋のようで恋でない、不思議なやりとり。読者は「成瀬に恋したらどうなるのか?」という問いを一緒に味わうことになります。
「ときめき江州音頭」
高校3年の夏。成瀬と島崎は毎年恒例の夏祭りで司会を務めていました。しかし、島崎から「東京に引っ越す」と打ち明けられ、2人の関係は大きく揺れ動きます。
“仲間との別れ”“未来への不安”“それでも進む勇気”。青春の終わりと始まりを鮮やかに描き、物語は静かにクライマックスを迎えます。
感想:「成瀬という人物をとても好きになった」
正直に言うと、最初は「なんて変わった子なんだろう」と思っていました。けれど、読み進めるうちに、その“変わり者ぶり”が彼女の魅力だと気づきます。
- 自分のやりたいことを迷いなく宣言する勇気
- 最後までやり抜く根気と覚悟
- 周囲を巻き込みながらも、誰かに影響を与えてしまう不思議な力
成瀬の姿を追いかけているうちに、私は彼女を 「とても好きになった」 のです。
読後には、「自分ももっと自由に生きていいのかもしれない」と背中を押されるような気持ちになりました。
読みどころまとめ
- 個性あふれる主人公・成瀬あかり
突飛なのにまっすぐ。彼女の言葉ひとつで、物語全体が動き出す。 - 多視点で描かれる青春
友人、同級生、恋の相手、時にはまったく別の人物。成瀬を通して、人々の人生が交差する。 - 滋賀という舞台のリアルな空気
西武大津店、ミシガン、江州音頭など、ローカルな風景が青春の背景を豊かに彩る。
📚 関連作品・おすすめ
- 続編
👉 『成瀬は信じた道をいく』
成瀬あかりの“その後”を描いた第2作。彼女を好きになった読者には必読の一冊です。
- 似た作品
- 恩田陸『夜のピクニック』
- 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
- 小林有吾『アオアシ』
❓ FAQ(よくある質問)
Q:この小説は短編ですか?
A:はい、6つの短編が連作としてつながっています。
Q:成瀬あかりはどんなキャラクター?
A:変わり者でありながら、真っすぐで潔い性格。周囲を振り回す一方で、いつのまにか人の心を動かします。
Q:中高生でも読みやすいですか?
A:はい。シンプルな文体で、青春小説として共感しやすいです。
Q:この本のテーマは?
A:「挑戦」「友情」「自己表現」「別れと成長」が柱になっています。
Q:続編から読んでも楽しめますか?
A:楽しめますが、まずは『成瀬は天下を取りにいく』から読む方が深く理解できます。
Q:本屋大賞を受賞した理由は?
A:成瀬というキャラクターの唯一無二の魅力と、地方都市を舞台にした等身大の青春が高く評価されました。
まとめ
『成瀬は天下を取りにいく』は、誰もが「変わっている」と思う主人公・成瀬あかりの行動を通じて、友情や挑戦、別れと成長を描いた青春物語です。
そして私自身、読み終えて強く思いました。
「成瀬という人物をとても好きになった」 と。
彼女の生き方は、不器用だけれど力強く、読む人に勇気を与えてくれるはずです。
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